親の介護を頑張った分は報われる?「寄与分」を主張するための条件と方法

はじめに:あなたのその頑張りを、誰も見ていなかったわけではありません
長年にわたり、大切な親御様の介護に献身的に尽くしてこられたのですね。
ご自身の時間を削り、時にはお仕事やご家庭との両立に悩みながら、親御様が穏やかな日々を過ごせるよう、力を尽くしてこられたことと存じます。
そのご尽力は、言葉では言い表せないほど尊いものであったと、心よりお察し申し上げます。
それなのに、いざ遺産分割の話し合いになった時、介護にほとんど関わらなかった他の兄弟姉妹と、法律で決まっているからと全く同じ分け方になるのは、どうしても納得がいかない…。そうしたお気持ちを抱かれるのは、当然のことでございます。
そのお気持ちに応えるため、法律には「寄与分(きよぶん)」という制度が用意されています。
この記事では、あなたの頑張りが法的に報われる可能性のある「寄与分」とは何か、そして、それを主張するために必要な厳しい条件と具体的な方法について、専門家が丁寧に解説いたします。
そもそも「寄与分」とは?
寄与分とは、共同相続人の中に、亡くなられた方(被相続人)の財産の維持または増加について「特別の寄与」をした人がいる場合に、その貢献を金銭的に評価し、法定相続分に上乗せして多くの遺産を受け取ることができる制度です。
これは、相続人間の「公平」を保つための制度です。あなたの「他の兄弟と同じでは不公平だ」というお気持ちは、まさにこの制度の出発点と言えます。
しかし、法律が認める「特別の寄与」のハードルは、残念ながら決して低いものではない、という現実も知っておく必要がございます。
寄与分が認められるための厳しい5つの条件
ご自身のケースが寄与分に当たるか、以下の5つの条件に照らし合わせて、客観的に確認してみましょう。
1. 「特別」な寄与であること
親子・兄弟姉妹には、互いに助け合う義務(扶養義務)があります。そのため、単なる身の回りのお世話や、時々の見舞い、一般的な親子としての範囲の援助では「特別」とは認められにくいのが実情です。
「通常期待されるレベルをはるかに超える、献身的な貢献」であったかどうかが問われます。
2. ほぼ無償(無報酬)での貢献だったこと
もし親御様から、介護に対する給料や十分な生活費を受け取っていた場合、それは「寄与」ではなく「労働の対価」と見なされ、寄与分は認められません。
3. 長期間、継続的な貢献だったこと
数週間や数ヶ月といった短期間の介護ではなく、年単位での長期間にわたる継続的な貢献であったことが求められます。
4. 財産の「維持または増加」に直接つながっていること
これが非常に重要なポイントです。あなたの貢献によって、「本来であれば支出されるはずだったお金が節約できた(財産の維持)」または「財産が増えた」という直接的な因果関係が必要です。
(例)
・あなたが在宅で介護をしたおかげで、月額20万円の施設利用料を5年間支払わずに済み、結果として1,200万円の預金が維持できた。(←これが最も典型的な主張です)
・あなたが親の家業を無給で手伝い、そのおかげで事業が拡大し、財産が増えた。
5. 寄与したのが「相続人」であること
寄与分を主張できるのは、原則として相続人のみです。例えば、長年にわたり義理の親の介護を一身に担ってきた「長男の嫁」は、相続人ではないため、この寄与分制度では報われません。
(※ただし、2019年の法改正で、相続人以外の親族は「特別寄与料」として金銭を請求できる制度が新設されました)
寄与分を主張するための具体的な方法
ステップ1:まずは「遺産分割協議」で主張する
寄与分を主張する最初の場は、相続人全員での話し合い(遺産分割協議)です。感情的に「私が一番頑張った!」と訴えるのではなく、介護日記や費用の領収書、ケアマネージャーの証言など、客観的な証拠を示しながら、冷静に貢献度を説明し、理解を求めることが大切です。
ここで全員が合意すれば、その内容を遺産分割協議書に記載して解決します。
ステップ2:話し合いがまとまらなければ「遺産分割調停」へ
協議で合意に至らない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てます。調停では、調停委員という中立な第三者が間に入り、双方の主張を聞きながら、話し合いによる解決を目指します。
ステップ3:最終的には「審判」へ
調停でも合意できない場合は、自動的に「審判」という手続きに移行します。審判では、裁判官が全ての証拠を元に、寄与分の有無やその金額を法的に判断し、最終的な決定を下します。
寄与分はいくらくらい認められる?計算方法の目安
介護の寄与分は、以下のような計算式で算定されることが一般的です。
介護の日数 × 介護報酬基準額(日当)× 裁量割合
- 介護報酬基準額:介護保険で定められている、介護サービス利用時の報酬額などが参考にされます(例:日当8,000円など)。
- 裁量割合:家族であることなどを考慮し、専門職ではないとして一定の割合(0.5~0.8など)が掛けられることが多いです。
【計算例】
日当8,000円 × 3年間(1,095日) × 裁量割合0.7 = 約613万円
このように、具体的な金額を算出して主張することになります。
まとめ:あなたの尊い貢献が、正当に評価されるために
ご自身の頑張りを主張することは、決してためらうべきことではありません。それは、あなたの正当な権利です。
しかし、その主張は、時としてご兄弟との感情的な対立を生み、ご家族の絆を揺るがしかねない、非常にデリケートな問題でもあります。
ご自身の貢献を客観的な証拠として整理し、冷静な話し合いのテーブルにつく。その準備段階から、私たち「つなぐ山形相続センター」がお手伝いできます。
私たちは、まずあなたの長年のご苦労や想いを、時間をかけてじっくりとお伺いいたします。その上で、法的な観点から寄与分として認められる可能性や、主張するための証拠の集め方、具体的な金額の算定などを、親身にサポートいたします。
あなたの長年のご貢献が、きちんと報われるべきだと私たちは考えます。
その想いを、そしてその頑張りの証を、まずは私たちにお聞かせください。




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